例文4本を、16項目で採点する
例文を「良い例」「悪い例」で見せる記事は多いですが、どこが何点で、なぜその点なのかまで書いてあるものは少ない。ここでは実際の診断レポートと同じ形で4本を採点しました。点が高い例だけでなく、2.4点がついた例も同じ形で載せています。自分の原稿を自己採点するときの物差しに使ってください。
C 3.5 読める文章だが「なぜこの大学か」が校風の話で止まっている、典型的な「あと少し」の原稿。
B 4.0 失敗の記述と数字があり一本につながっている。弱いのは2点だけ。
D 2.4 気持ちは書かれているが事実がほとんど無い。いま一番多いタイプ。
A 4.6 このまま出してよい水準。何がそこまで違うのかを見てください。
① 文系(社会学部)— Cランク 3.5
読める文章になっていて、一貫性と独自性は4点。ただし「なぜこの大学か」が校風の話で2点、数字が無く、結びが定型に近い。典型的な「あと少し」の原稿です。
採点した原稿 架空の受験生が書いたものとして作成
私は、誰もが住み慣れた場所で暮らし続けられる地域のしくみを学びたいと考え、◯◯大学社会学部を志望します。
きっかけは、高校一年の冬、祖母がひとりで買い物に行けなくなったことでした。近所のスーパーが閉店し、いちばん近い店まで車で二十分。祖母は免許を返納していました。私が週末に付き添うようになりましたが、祖母は「迷惑をかけて申し訳ない」と繰り返し、以前より口数が減っていきました。私はこのとき、移動の問題が単なる不便ではなく、人の自尊心や人とのつながりを削っていくのだと気づきました。
この経験から、高校二年の春に地域の移動支援ボランティアに参加しました。高齢者を病院や店に送迎する活動です。続けるうちに、利用者の多くが「誰かに頼むこと」そのものにためらいを感じていること、そして送迎の車内での会話を何より楽しみにしていることが分かりました。私は活動の中で、利用者が申し込みやすくなるよう、予約の電話ではなく回覧板に申込用紙を挟む方法を提案し、実際に採用されました。
この活動を通して、私は「移動」を交通の問題としてではなく、地域の人間関係や制度の問題として考えたいと思うようになりました。◯◯大学社会学部では、地域社会学と都市政策を横断して学べると知り、自分の関心に最も近いと感じました。また、フィールドワークを重視した教育方針にも強く共感しています。
将来は、行政や地域の団体で、高齢者が孤立せずに暮らせる地域づくりに関わりたいと考えています。祖母のような人が「申し訳ない」と言わずに暮らせる社会をつくることが、私の目標です。
書き直しが必要な箇所がある
読める文章にはなっていますが、評価が分かれる箇所が残っています。優先度の高い順に直してください。
評価できる点
- 祖母の話を「不便」ではなく「自尊心と人とのつながりの問題」として捉え直した部分に、この人の観察力が出ている。ここがこの原稿の芯です。
- 「回覧板に申込用紙を挟む」という提案は、課題を見つけて自分で動いた証拠になっている。この一点で、多くの志望理由書と差がつきます。
最優先で直す3点
- 数字を入れる活動期間(何か月)、送迎した回数か人数、回覧板方式にして申込みが何件から何件に増えたか。いま数字がひとつもありません。最も直しやすく、最も効きます。
- 「なぜこの大学か」を書き直す「横断して学べる」「フィールドワーク重視」は、同系統の学部を持つ他大学にもそのまま当てはまります。具体的な科目・ゼミ・研究を1つ挙げ、他大学との違いを1点だけ書いてください。
- 「なぜ社会学部か」を用意する福祉学部でも政策学部でもなく社会学部を選んだ理由が、本文にありません。1文入れるだけで、面接で最初に突かれる穴が消えます。
全体印象
大学適合度
根拠の質
論理構成
面接リスク
将来性
② 理系(情報工学科)— Bランク 4.0
祖母の服薬ミス→アプリ→通知設計の失敗→情報工学、と一本でつながり、数字も場面もある。弱いのは「なぜこの大学か」と「専門用語の説明」の2点で、どちらも1〜2日で直せます。
採点した原稿 架空の受験生が書いたものとして作成
祖母が同じ薬を2回飲んでしまったのを見たのは、高1の冬でした。薬のシートに日付を書く方法は、祖母自身が「見えにくい」と言って続きませんでした。私は、祖母のスマートフォンに、飲んだら押すだけのボタンと、押されなかったときだけ家族に通知が届くアプリを作りました。
最初の設計は失敗でした。毎回の服薬時間に通知を出したところ、祖母は3日目から通知を無視するようになった。通知が多いと、通知は意味を失う。そこで、通知は「押されなかったとき」だけ、しかも家族側に出す形に変えました。この形にしてから3か月、週2回の確認で飲み忘れは0回です。
作ってみて分かったのは、機能を増やすことより、人がどう振る舞うかを先に考えることの難しさでした。貴学科の△△研究室が扱うユーザビリティの研究は、まさにこの「人が実際にどう使うか」を対象にしていると知り、志望しました。
大学では、1・2年次でプログラミングと統計を土台として身につけ、3年次以降に△△研究室で、高齢者向けの通知設計をテーマに研究したいと考えています。卒業後は、医療機器や介護の現場で使われるソフトウェアの設計に関わりたい。祖母が続けられたものを、祖母以外の人にも届く形にすることが、私の目標です。
あと1〜2箇所で仕上がる
一本の線が通っていて、数字と場面もある。弱いのは「なぜこの大学か」と「専門用語の説明」の2点で、どちらも1〜2日で直せる。
評価できる点
- 祖母の服薬ミス→記録アプリ→通知の仕組み→情報工学、と一本でつながっている
- 週2回・3か月・ミス0回、と数字で結果が示されている
- うまくいかなかった初期の設計(通知が多すぎて無視された)を自分で書いている
最優先で直す3点
- 「なぜこの大学か」が研究室名だけ研究室名は出ているが、他大学の同分野との違いに触れていない。「他大学は〇〇だが、貴学は△△」を1文足す
- 「ユーザビリティ」の説明が浅い用語は正しいが、自分の経験(通知を減らした判断)と結びつけて説明すると理解の深さが伝わる
- 結びが定型に近い「以上の理由から」を消し、祖母の1文で締める
全体印象
大学適合度
根拠の質
論理構成
面接リスク
将来性
③ 看護学部 — Dランク 2.4
ここが一番多いタイプです。文章は読みやすく、誤字もない。けれど書かれているのが気持ちだけで、事実がほとんどありません。この状態で提出すると、面接で「そのとき看護師の何を見ましたか」と聞かれた瞬間に答える材料が手元にない。直す場所は多いですが、材料(祖父の入院)は本人が持っています。書き出し方を変えるだけで、点は大きく動きます。
採点した原稿 架空の受験生が書いたものとして作成
私は幼い頃から人の役に立つ仕事に就きたいと考えており、看護師を志望しています。中学3年生のとき、入院した祖父を見て、看護師の方々の姿に感銘を受けました。
患者さんに寄り添う看護を実践できる看護師になりたいと考えています。そのためには、確かな知識と技術、そして何よりも思いやりの心が必要だと思います。
貴学は看護教育に力を入れており、充実した設備と経験豊富な先生方のもとで学べる環境が整っています。私は貴学で学び、患者さんの気持ちを第一に考えられる看護師になりたいです。
以上の理由から、私は貴学看護学部を志望します。
出す前に、書き直しが要る
志望の気持ちは伝わるが、書かれているのが気持ちだけで、事実がほとんど無い。いまの状態で提出すると、面接で聞かれたときに答えられる材料が手元に残らない。
評価できる点
- 看護を志した時期がはっきり書かれている
- 文章そのものは読みやすく、誤字がない
最優先で直す3点
- 経験が1行で終わっている「入院した祖父を見て」で止まっている。いつ・どこで・自分が何をしたか・そのとき何を感じたかを、4文に分けて書き直す
- 「寄り添う看護」が説明されていない誰でも書ける言葉のまま。あなたが見た場面で、誰が何をしていたのが「寄り添う」だったのかを1つ挙げる
- この大学である理由が無い大学名を入れ替えても成立する。カリキュラム・実習先・教員のいずれか1つに触れる
全体印象
大学適合度
根拠の質
論理構成
面接リスク
将来性
④ 教育学部 — Aランク 4.6
「教え方を工夫したら伸びた」ではなく、「工夫しても伸びなかった1人がいた」から問いが立っています。うまくいかなかったことを書けているかどうかが、③と④を分けている最大の差です。直す場所は結びの1文だけ。
採点した原稿 架空の受験生が書いたものとして作成
中学生の学習支援ボランティアを2年間、週1回、のべ80回続けました。担当したのは6人です。そのうち5人は、解き方を細かく分けて教えると点が上がりました。
けれど1人だけ、どれだけ教え方を変えても変わりませんでした。あるとき、その子が「分からないと言うと、家で怒られる」と言ったことがありました。分からないと言えない子に、教え方の工夫は届かない。私が2年かけて分かったのは、そこでした。
貴学教育学部で学びたいのは、学習科学の中でも「学習者が助けを求められる状況をどう作るか」という領域です。指導法そのものよりも、その手前にある関係の設計に関心があります。
将来は中学校の教員として、まず「分からないと言える教室」を作ることから始めたいと考えています。あの子が最後の回に、初めて自分から「ここが分からない」と言ったときの表情を、まだ覚えています。
このまま出してよい
経験・問い・大学での学び・将来が一本でつながり、数字と失敗の記述もある。直す場所は結びの1文だけ。
評価できる点
- 学習支援ボランティアの2年間が、回数と人数で書かれている
- 「教え方を変えたら伸びた」ではなく「変えても伸びなかった子がいた」から問いが立っている
- 大学で学びたいこと(学習科学)が、その問いの答えを探すためだと分かる形になっている
最優先で直す3点
- 結びの1文が説明的最後の「以上のことから志望します」を削り、直前の「あの子が最後に見せた表情」で終えると強い
- 教員名が出ていない研究室・教員名を1つ入れると、大学適合度が5になる
- 高校の授業との関係が薄い探究の授業などで扱ったことがあれば1文だけ足す
全体印象
大学適合度
根拠の質
論理構成
面接リスク
将来性
4本を並べて分かること
点が高い原稿に共通しているのは、文章のうまさではありません。うまくいかなかった事実が書いてあるか、数字があるか、その大学でなければならない理由が具体か。この3つです。逆に、4本すべてで一番低いのは「この大学でなければならない理由」でした。文系・理系・看護・教育を問わず、最も多くの原稿がここで止まります。他大学との比較を1つ入れるだけで、この項目は動きます。
自分の原稿は何点か
16項目を自分で採点できるシートを用意しています。自分では判断しにくい項目は、評価者が全文を読んで採点する無料診断(お一人2回まで)をお使いください。3日以内にレポートでお返しします。